暫らく前に残しておかなきゃと思っててそのままになってた.中間選挙で両院とも劣勢となり,今後2年は防戦を強いられることとなり,国防長官の更迭まで行なった.米軍の早期撤退を求める世論が前面に出てくるようになり,何処に対しても武力行使を伴う強硬姿勢を示すことが困難となって,最近では北朝鮮に対してもかなり譲歩している気配すらある.
イラクでの紛争が続くことで,あるいは復興支援を続けることで,利益を得ている勢力の抵抗もあるだろう.かと言って撤退を急ぐあまりに,以下にあるように単純な線引き(地域分割)を強行することによって,過去に繰り返してきた戦後処理にツキモノの新たな紛争地域創造の虞を再び犯して欲しくは無いと思う.
バグダッドで発行されている独立系アラビア語新聞「ザマン」のホームページを見ると、9日付けの朝刊では「ラムズフェルト氏の更迭を歓迎する」とする政治部長の見解が出ている。「同氏の辞任は、アブグレイブ刑務所の囚人虐待に始まる非道やイラクの治安を牛耳って悪用する者たちを野放しにするような政策の終わりであり、さらにイラクを地域的などん欲さに基づいて分割する陰謀も終わりだ」としている。
イラクは主要勢力だけでもアラブ人とクルド人、イスラム教徒のスンニ派とシーア派がおり、様々に主張も利害も異なる。ザマン紙の論調がすべてではないが、有力な独立系新聞の主張だけに、現在のイラクの混乱について、ラムズフェルド氏が主導した米国のイラク政策に対して、イラク国民の間に不信感が強いことは分かる。
問題は米軍の撤退の時期だが、ラムズフェルト氏の国防長官辞任が報じられた後、日本の中東研究者から「米英紙に意見広告を掲載するために、米英軍の撤退を求める署名が回っている」とのメールが届いた。そこにあった「停戦キャンペーン」<http://www.ceasefirecampaign.org/>というホームページを開いた。
署名呼びかけの請願文書にはこうある。
「多国籍軍はイラクで軍事的な勝利を手にしようとして、国を廃墟とひどい内戦に追い込んでいる。毎月数千人のイラク民間人が死亡している。多国籍軍はイラクでは軍事的な勝利はなく、さらに平和をもたらすのに必要な正当性さえも失っているということを受け入れねばならない。イラクに平和と安定をもたらすために、我々は多国籍軍が国際社会により大きな役割を与え、全軍が段階的な撤退を実施するよう求める」
このキャンペーンはニューヨークに拠点をおく市民グループが主導し、今夏にあったイスラエルによるレバノン攻撃の停戦を求める運動として始まった。レバノン攻撃では150カ国から30万人が賛同したという。
メールを送ってくれた研究者は「外国軍がいなくなるとかえって治安が悪くなるのでは、という議論もありますが、現在は欧米でも多くのイラク・ウォッチャーが『現在イラクに外国軍がいても紛争予防になっている様子はない、むしろ紛争の口実をなくすことで部分的には紛争状況を軽減できる』という見解を取っています」と説明している。
確かにますます悪化するイラクの情勢を見ると、米英軍のイラク駐留が、復興を進めたり、治安を回復したりするどころか、自ら紛争の当事者になってしまい、問題解決をますます複雑にしているように思える。10月の米兵の死者は2005年1月以来初めて100人を超えた。
さらに英米が2003年春にイラク戦争の開戦を強行し、国連安全保障理事会が分裂したことは、いまなお国際社会の亀裂として残る。戦争に反対した常任理事国のフランス、ロシア、中国、さらに非常任理事国のドイツは、なお多国籍軍に参加していない。アラブ世界では米英によるイラク戦争は、イラクの石油支配を目的とする侵略とみなされており、米英の働きかけがあっても、アラブ諸国からイラクに派兵している国はない。
戦後は米英が開戦の理由とした大量破壊兵器保持疑惑も、国際テロ組織アルカイダとの協力の疑惑も米国議会によって否定され、戦争の大義は崩れた。「停戦キャンペーン」が「米英軍が平和をもたらすのに必要な正当性を失っている」というのは、米英軍によるイラク戦争とその後の駐留に正当性がないことに起因する。
これまでの多くの戦争や紛争の後で、戦後復興を主導した国連も、2003年4月のバグダッド陥落の4カ月後に現地本部を自動車爆弾で爆破され、現地の国連代表を含む20人が死ぬテロの標的となった。その後、外国人スタッフは撤退し、未だにイラクへの関与は限定的だ。米英軍の駐留が続く限り、復興が武装勢力の攻撃の標的になるという悪循環から抜け出す道筋は見えてこない。
8月の米CNNテレビの世論調査によると、57%の米国人が撤退の時期を定めることを支持している。今回、共和党はイラク問題で批判を受けて敗北したが、勝利した民主党の中に早期撤退を主張する声はあるが、党としてまとまったイラク政策を打ち出しているわけでもないようだ。民主党有力議員のバイデン氏は、イスラム教スンニ派、シーア派、クルド人の3つの地域を分ける3分割案を提案している。しかし、米国が主導して分割案をとれば、ザマン紙の論調に現れているように「米国はイラクを分断しようとしている」というイラク人の疑いをさらに強めることになるだろう。
さらにイラクの民族・宗教対立の難しさは、民族や宗派が混在し、単純に3分割で切り離すことができないことにある。シーア派は南部や中部だけではなく、北部まで広がっている。バグダッドの東方のバクバや北部のサーマッラでは、スンニ派が多数だが、町の中にシーア派が住んでいる。サーマッラにはシーア派の聖地の一つがあり、今年2月に爆弾テロが起こった。その後のシーア派とスンニ派の殺し合いが激化する引き金となった。
イラク人は米軍の駐留をどう見ているのか。米国の大学が今年9月にイラクで行った世論調査によると、71%が「イラク政府は米軍に1年以内の撤退を求めるべきだ」と答えた。「半年以内の撤退」要求を支持する意見は37%だった。20%が「2年以内の撤退」。ブッシュ政権が主張しているような「治安状況が改善したら米軍を削減する」という選択肢を支持したのは、わずかに9%だった。米国が現在イラクに対してとっている政策は、イラク国民の1割にも支持されていないことになる。
イラクで政治プロセスに参加しているイラク・イスラム党のようなスンニ派政党は米軍が撤退のめどを示すよう求めている。政治参加に反対しているスンニ派宗教指導者たちが集まる「イスラム宗教者委員会」も「米軍が撤退のめどを示せば、政治プロセスに参加する用意がある」という意向を表明している。アルカイダ系やイスラム過激派勢力ではないイラク人主導の反米武装勢力の主張も同様だ。
シーア派のマリキ首相は、この夏に全政治勢力に対して「国民和解」提案を呼びかけた。反米攻撃を続けるスンニ派武装勢力を含む国内の柱の一つは、米軍に撤退計画を示すよう求めている。国民和解がなかなか進まない原因の一つは、ブッシュ政権が撤退計画を示さないことにある。
米国や米軍が主体的に関わらないで、イラクの紛争解決や和平構築ができるのかという意見や懸念は強いだろう。しかし、いまのイラクでは米国そのものが問題の一部であり、発想の転換が必要だ。米軍が撤退計画を示すことで、イラクの国内勢力が自分たちのための国づくりで協力し、国連やアラブ諸国、イラク戦争に反対した主要国も含めて、国際社会がそれを支援する態勢ができる可能性はでてくる。
ブッシュ大統領はなお「イラクでの勝利」を口にするが、米軍が軍事力に頼るかぎり、イラク市民の犠牲も、米兵の死者も増え続けるだろう。最悪の事態は、米国内の批判がさらに高まり、米政府が唐突に「名誉ある撤退」を発表することだ。周到な撤退計画もなく、イラク国内での受け皿も、国際的な関与の枠組みもなく、米国が逃げるようにイラクから手を引くことになれば、内戦になるか、混乱に乗じてイスラム過激派が権力を乗っ取るか、いずれにせよ、制御不能の事態となりかねない。米国民が共和党に「ノー」を突きつけたことは、国際社会にとってもイラクの問題を改めて考え直す機会だ。
少し前に「日本はアメリカの属国のブンザイで6カ国協議に参加する資格など無い」という北朝鮮の中傷報道が取り上げられていたが,上のような状況で唯諾々と米軍の支援を続けていることに関して,最近は全くといって取り上げられることがなくなっている現状を思うと,ある部分では返す言葉が無いと感じた.再開した6カ国協議も,事実上蚊帳の外の状況みたいだし.